青木湖畔で行われた2泊3日の「POW JAPANアンバサダーサミット2022」密着レポート

「地球には冬が必要だ」

こうスローガンに掲げ、スノーコミュニティ発で気候危機からフィールドを守る活動を続けるProtect Our Winters Japan(以下、POW)には、現在18人の「アンバサダー」という仲間がいます。

環境団体であるPOWではアンバサダーのことを、POWというツールを使って一緒に気候危機へのアクションを起こす同志たちと捉えています。スキー・スノーボードの世界で活躍する彼らの個性とネットワークはPOWの活動に欠かせない大きな力。

そんなアンバサダーたちが一同に会す初めての試みとして、長野県大町市の青木湖畔にあるライジングフィールド白馬を貸し切り、2022年10月11日(火)〜10月13日(木)の2泊3日で「POW JAPANアンバサダーサミット2022」を開催しました。パートナー企業や次世代のアンバサダー候補、ボランティアクルーにも声をかけ、総勢30名以上が全国各地から集結。

参加者たちが口々に「1週間くらいに感じた」と振り返る、あまりにも濃密だった3日間。一緒に参加させていただきながら取材をした密着レポートをお届けします。

Edit & Write: Ryoko Wanibuchi @ryokown
Photo: Ayako Niki @247nikiimages
Movie: Kazushige Fujita @forestlogd 

「冬を守る仲間を増やす」アンバサダーサミットの主旨

10月、スイスの山岳リゾート・エンゲルベルクで行われたサミット。60人以上が集まった

2007年にアメリカのプロスノーボーダーのジェレミー・ジョーンズ氏によって創設された環境保護団体、Protect Our Winters。現在は13カ国のスキーヤー・スノーボーダーコミュニティに活動が広がり、世界各国でアンバサダーサミットが開催されている。

日本での開催にあたっては半年ほど前から準備を始めた。大勢で集まることが許されなかった2年余り、事務局メンバーたちもこの日を待ちわびていたという。

サミットの目的は、アンバサダー同士の「コミュニケーション強化」と「エンパワーメント」。それぞれの地域に帰って「冬を守る仲間を増やす」というミッションを達成するため、POWをハブに集まる人々のパワーを肌で感じ、アクションを起こすために必要な仲間とツールを手にしてほしい。そんな想いで当日を迎えた。

“POWアンバサダーとして何をやっているの?“と聞かれたときに、彼らが答えるのはきっと難しいと思う。代表の自分ですら難しいと思いながら説明しているくらいなんだから。POWが向き合う問題のことをもっと知れれば、自分の言葉で伝えられるようになると思うんです。普段やらないようなプログラムをたくさん用意したので、楽しんで自分なりの答えを見つけてもらえたら嬉しいです。

POW JAPAN 代表理事・小松吾郎
今回サミットに参加したアンバサダーたち(アンバサダーの一覧はこちら

参加者たちは北海道、湯沢、野沢温泉など、全国各地から白馬に集まる。初日は気候危機の話に入る前に、「仲間づくり」と「伝える力」をワークショップ形式で身につけた。ウェルカムディナーで親睦を深めたら、翌日は気候変動に立ち向かうための知識や情報を4名の専門家からインプット。最終日は再びワークを行い、学んだことをどうアクションに繋げていくかを考えた。合間にはSUPやサウナなどのアクティビティを取り入れ、朝昼晩の食事にまでこだわり抜いてデザインされたプログラムだ。

寝食を共にしながら学んで遊び、エネルギーを高め合う3日間。白馬山頂では初冠雪が観測され冬の訪れを感じる中、スキーヤー・スノーボーダーを集結させたサミットが幕を開けた。

コミュニティ・オーガナイジングとストーリーテリングを学ぶ

初日の集合時間13:00に近づくと、アウトドアフィールドによくなじむ車たちが続々と青木湖の畔に集まってくる。同じ世界で活動するアスリート同士、季節をまたいだ再会を喜ぶ一方、「雪上以外で会うのが初めて(笑)」という声も聞こえてくる。湖に面した芝生エリアで1人ずつ自己紹介を終えると、アイスブレイクが始まった。

なぜPOWコミュニティに? 青木湖の畔でアイスブレイク

ここに集う人たちは、年齢も立場も住む地域もバラバラ。アスリートもいれば、パートナー企業(メーカー)で働く人も。数人のグループに分かれ、どんな経緯でPOWに関わり今日この場にいるのかシェアしあうと、それぞれのPOWとのストーリーが見えてきた。

滑り手として年々雪が減っているのを感じていたとき、アンバサダーにならないか? と声をかけてもらった。自分なんかがと一度は断ったけれど、『誰でも最初はそう思う。それを解決していくのもPOWの役目』と説得してもらった。周りのスノーボーダーは何も知らない子もまだ多く、こんな私でも伝えられることがあるかも、と今は思えている

スノーコミュニティで出会う人たちは、まず先に“遊び”があるからポジティブな想いだけで動ける。いつまでも滑りたいという気持ちと、自然への感謝の気持ち。自分はスノーボードと出会って人生が豊かになったから、選手としてのキャリアの延長線上で、自然に恩返しがしていきたいと思っている

POWアンバサダーの活動を、選手の“セカンドキャリア”と捉える人もいた。彼らにとってPOWはよき相談相手であり、コミュニティのハブとして機能していることがうかがえる。

サミット期間中に自由に持ち出して読める書籍が並ぶPOW図書館。おやつには手作りのオーガニックスイーツを

メイン会場となるホールには、気候変動関連の書籍を並べた「POW図書館」が設置され、POW事務局スタッフ手作りのオーガニックスイーツが用意された。少しぎこちなさのあった空気もぐっとほぐれ、POW代表からの挨拶をもって最初のプログラムがスタートした。

ワークショップ形式で「ストーリーテリング」を身につける

覚えた知識をひけらかすのではなく、自身のストーリーを語って人の心を動かす。3日間を終えてそれぞれの日常に戻ったとき、自分の言葉でPOWを取り巻く気候危機や環境の問題を伝えられるように、最初のワークショップでは「ストーリーテリング」の手法を学んでいく。

「困難+選択=結果」がストーリーの方程式

講師はパタゴニアの坪井夏希さん。企業として環境問題に向き合い続けるパタゴニアでは、店舗スタッフにこのワークショップを実施し、お客さんに上手く話せる練習を重ねているそう。坪井さんから「コミュニティ・オーガナイジングの5つのステップ」が共有され、その最初のステップとして自分の価値観を相手に伝える「ストーリーオブセルフ」を実践した。

“正しいから”だけでは人は動かない! 「困難+選択=結果」の順で語ると、人の価値観を変えられる。

まずは席が近い同士でペアになり、「今までにした大きな決断は?どうしてその決断をしたの?」をテーマに話しながら、本番のワークで語るテーマである「自分が大切にしている価値観」を探る。ホールにはすぐに笑い声が溢れた。その後、ストーリーテリングの参考例として、POW事務局から高田さん・鈴木さん・小松さんが順番に前に出てそれぞれのストーリーがシェアされた。学生時代の原体験まで遡って語る3人のストーリーから、事務局メンバーがPOWに関わるようになった背景がわかった。

イラストを頼りに2分で伝えるトレーニング

続いて紙とペンが配られた。「私の価値観(大切にしている想い)と、その価値観はいつどのように培われたか」をイラストで表現するというお題が出され、「困難」「選択」「結果」の3枠に分けられた紙を手に真剣なお絵かきタイム。

このワークのポイントは、2分という制限時間を厳守して手短に話すこと。タイムキーピングをしながらグループを組み替えて練習したあと発表が行われた。

人の繋がりに助けられ115キロから52キロに減量した話。実家の宿を継ぐことになり自責の大切さが身に沁みた話。交通事故で義足になったけれどスノーボードに救われた話。スロープスタイルからフリーライドに転向し世界に挑んでいる話。

あえてイラストで描いたのは、文章を読み上げるのではなく、概念やイメージだけを頼りに自分の内側から言葉を紡ぐトレーニングのためだった。何度も同じ話を練習したあとには、感情を込めジェスチャーを使いながら、人を引き込む話し方ができるようになっていた。

POW代表に聞いた「このワークショップはどうやって?」

ストーリーテリングを身につけながら、場のムードまで和やかにしてしまった(コミュニティ・オーガナイジングに成功した?)このワークショップ、かなり考え抜いて設計されているように感じるが、どのように作ってきたのだろうか。POW代表に聞いてみた。

このワークショップはPOWメンバーも何度か受け、たくさんの学びを得てきたもの。アンバサダーの皆さんにも還元したくて、専門家のアドバイスを受けながらも、普段からこうした活動をしているなっちゃん(パタゴニア坪井さん)と仲間内で創り上げてきた感覚です。

POWとして3年間活動してきて、“仲間づくり”が本当に大事だと思っていて。自分たちは白馬でこうして一緒に動く仲間がいるけど、みんなは地元に帰ったらひとりで活動していかなければならない。それぞれの地で仲間づくりをするときに、今日行ったやり方を実践してもらえればと思っています。

代表理事・小松

ほんの2時間程度のワークショップだったが、参加したアンバサダーたちは早くも手応えを感じたようだ。

濃いメンバーばかりが集まっているから、みんなの話を聞いてディスカッションするだけでも有意義でした。まだ始まって数時間ですが、これがあと2日あると思うと、かなり濃厚な時間を過ごせるかなと。みんなの人となりがわかり、ここからパワーを持って前に進められそうです。今晩は飲みたいと思います!

夜のウェルカムパーティーはBBQ

初日のディナーを提供してくれたのは、白馬の隣・小谷村で貸し切りキャンプ場を営むMATKAさん。ワークショップの裏では、地元のおばちゃんたちが作った季節野菜と、ストーリーのあるジビエ肉を使った料理の準備が着々と進められていた。

ディナーの冒頭、このパーティーの会場準備やオーガナイジングを担った「POW CREW」が紹介された。POWの活動を知り「自分も何かしたい」と直接コンタクトしてきてくれた有志のボランティアチームだ。10月に発足したばかりということで、それぞれの熱い想いとエピソードに胸を打たれる。

食事にもこだわった今回のサミットでは、これから頂く食べ物について知る時間が毎食ごとに設けられた。この夜振る舞われたのは、有害鳥獣駆除としてつい2日前に打たれたばかりの猪。仕留める瞬間の映像と捌くのに5時間かかったエピソードがシェアされ、動物を食べるということは本来、相当な労力がいることなのだと気づかされる。

この夜は10℃以下まで冷え込んだが、さすがは「地球には冬が必要だ」と言う人たちの集まり。見慣れた冬の装いに身を包み、寒さをものともしないエネルギーで夜更けまで宴は続いた。湖面には満月がゆらめき、ほっと温まる料理と心地よい音楽のグルーブが会場を彩る。

幸せな時間を共有し、ただシンプルに「仲良くなる」こと。参加者同士のコミュニケーションを強化する、というこのサミットの目的を果たすために、これ以上に大切な時間はなかったかもしれない。

4名の講義からインスピレーションを得る学びの日

スキーヤー・スノーボーダーたちの朝は早い。深夜まで楽しんでいた人も多いというのに、日の出とともにバイタリティ高く活動しはじめる。

アンバサダー18名のうち今回は14名が白馬に集まり、都合により来られなかった人も2日目の講義にはオンラインで参加できる。たった3人で立ち上げ、少しずつ仲間を増やしてきたPOW。ようやくスタートラインに立てたという気持ちで2日目を迎えた。

早朝5時からモーニングコーヒー、SUPやヨガをして迎える朝

会場に隣接するBOB’s Coffeeでは朝5時からコーヒーとサンドイッチの朝食が提供された。好きなときに湖に繰り出せるよう湖畔には数台のSUPが置かれ、自由参加のモーニングヨガには10名前後が集まった。思い思いの朝を過ごし、1日かけてみっちり向き合う勉強に気合いが入る。

POW JAPAN ビジョン 2025が共有され、講義がスタート

メインとなるこの日は、4名の専門家による講義が用意された。事務局からPOWが2025年までに目指すビジョンが共有され、気候危機の現状として洪水や干ばつといった世界各地の悲惨な光景がシェアされた後、スキーヤー・スノーボーダーと縁が深い「アラスカ」の話からこの日のトークは始まった。

講演1:アラスカ氷河の昔と今

「季節外れの氷の話になるんですけど……」

最初の講義は、ゆっくりと、しかし確実に起きている地球の変化を、視覚的インパクトをもって伝えるには十分すぎるものだった。登壇者は、写真家・映像作家として世界のスノーフィールドを旅し、20年近くに渡りアラスカの氷河に魅せられてきた山田博之さん。

いつも氷河を目の前にして感じるのは、圧倒的な自然のパワー。ここにどんな歴史があったんだろうと、時間を超越したものすごい力を感じ、言葉にできない感情にさせられます。見たこともない青い発光に魅了され、ひらすら言葉を失い続ける神秘的な時間。『今年もやっとたどり着けました』と、お参りに近い感覚で訪ねています

山田さん

氷河とは、氷の堆積物のこと。私たち人間とは異なる時間軸に存在し、止まっているようにしか見えないが、たしかにじわじわと移動しながら形を変える。そんな氷河を長年に渡って観察し続けるうち、変化に気づくようになったと話す。

あるとき前年と同じ場所から写真を撮ろうとしたら、地元の人に『この1年で1マイル後退したぞ』と言われました。短期間でそんなに、嘘でしょ、とアラスカの雑誌のバックナンバーを漁ってみると、昔の写真からたった数年でとんでもない範囲の氷が溶けていることがわかったんです。僕たちの周りには、自分ごとか他人ごとか、その2つしかありません。遠い氷河の話をいかに“自分ごと”として捉えてもらうか。記録を残し伝えていく使命を感じています

山田さん

山田さんは、自分事に近づけるための「実体験に限りなく近い体験」をしてもらうべく、最新テクノロジーを使って氷河をスキャニングし、GPSの座標軸を使ってその後退を3Dマッピングで表現することをはじめた。一方で、人の心を動かすにはもっとアナログなアプローチも必要ではと、原点に戻って映画製作も進めている。あと20年、いや10年足らずで、この美しい自然の造形が跡形もなく消えてしまうのではないか。ショッキングな現実を目にし、会場の全員が同じレベルで危機感を共有した時間だった。

講演2:社会構造の大転換を目指す

続いての登壇者は、 Climet Integrate代表理事 / 元気候ネットワーク国際ディレクターの平田仁子さん。「本当に皆さんの力をお借りしたいんです!」と冒頭から力強く訴え、地球の平均気温がたった1℃上がるだけで起こる変化、科学者も予測できなかったような自然災害など、切実な「地球の今」が伝えられた。

平田さんはとにかく「時間がない」と訴える。あと数年で、取り返しがつかない状況になってしまう。そんな危機的状況にあるにも関わらず、国や政府の取り組みがいかに的外れであるかが科学的根拠やデータをもって伝えられ、参加者たちは目から鱗。時折メモを取りながら、真剣に聞き入った。

エコバッグを持ち歩くとか、もうそういう個人の取り組みでなんとかなる話じゃないんです。根っこからのインフラ転換、経済構造の大転換が必要です。私たちが目指すべきは2050年ネットゼロ、脱炭素社会の実現。ファッション、アート、食などさまざまな分野からの発信にかかっていて、皆さんのいるウィンタースポーツの世界も大きな力を持っています

平田さん

POW事務局長の高田さんは「僕らの活動の意義や目指すことを正しく伝えるために平田さんをお呼びした」と話す。日々の心がけも大切ではあるが、社会レベルの大転換を起こすには情報発信のパワーが欠かせない。一人ひとりが発信力を持ち、スノーコミュニティを引っ張っていく存在であるアンバサダーたちからは、自分は何をすべきなのかと具体的な質問が多く上がった。

午前の部を終え、この日のランチタイムは約2時間と少し長めに。濃厚すぎた話の数々を自分の中に落とし込み、さらなるインプットに向けて頭をリフレッシュさせる時間。すっかり打ち解けてきた参加者同士、アクティビティを全力で楽しみ午後の部に備えた。

講演3:八方尾根スキー場のSDGs

スキー場が近い「スノータウン」と呼ばれる町は、ここ白馬にかぎらず全国各地に存在する。滑り手たちの声が自治体を動かし、誇りに思える「スノータウン」を作る動きが各地域で実現できればと、POWの署名活動により2025年までにHAKUBA VALLEYのすべてのスキー場が再エネへの切り替えに着手する宣言が出された白馬エリアの事例が紹介された。

中でも着実な進歩を遂げているのが白馬八方尾根スキー場だ。八方尾根開発株式会社SDGsマーケティング部の松澤瑞木さんにお越しいただき、スキー場としての環境への取り組みをシェアしていただくことから午後の部はスタート。

POWが発足した年の冬、まず自分たちの実情を調べることから始めました。ご想像の通り、スキー場が全体で排出するCO2はかなりの量です。何基もあるリフトに加え、圧雪車や降雪機はそれ以上のCO2を排出します。少しずつ電力を切り替えて、自社が管轄するリフトの100%再エネ化が済んだのはようやく今年のこと。2030年にはCO2排出ゼロにすることを目指しています

松澤さん

スキー場内リフトの100%再エネ化には、メディアからの取材が相次いだ。「当スキー場の取り組みを知ってもらうことで意識を高めてもらえるのでは」と、再エネステッカーを貼ったりInstagramでフォトコンテストを実施したりと、PR施策にも転換させた。

参加者たちの関心も高く、コスト面や他地域での再現性についてリアルな質問が上がった。いきなり政府や大企業は動かせなくても、自分たちが滑る「スキー場なら動かせるかもしれない。午前の平田さんの話からの流れもあり、システムチェンジへの意気込みが感じられた。

講演4:市民運動で社会を動かす

最終講義は環境活動家の小野りりあんさんより、「市民ムーブメント、“わたし”はどう参加する?」というテーマで。自分に一体何ができるんだろう? 変化を起こせる可能性はあるのだろうか? と思いはじめていた参加者たちに、“わたし”のパワーはすごいんだぞと、希望を与えてくれる講義だった。

モデルとして活躍しているりりあんさん。培ってきたインフルエンス力を社会のために使おうと、気候マーチへの参加やSNSでの発信などを通して、パワフルなメッセージを発し続けている。

発信しはじめるとたくさんの人が反応してくれて、『なんだ、みんな知りたいんじゃん』と思ったんです。自分の好奇心に従って、まずは一歩踏み出してみる。それを繰り返した先に、共感しあえる人と出会えたり、インパクトのある人と話せたり必ずするから。自分なりの気候変動へのアクションを見つけてほしい

りりあんさん

友達に語りかけるような軽やかな口調とスクリーンに映し出されたポップなスライドで、「何が楽しい?」「あなたの特技は?」「必須の気候と公正な変化は?」の3つが重なるところから、自分にできるアクションを見つけ出すワークショップが行われた。海外アスリートの事例など、ここに集うPOWアンバサダーたちがお手本にできるサンプルも紹介された。

私たちは権力者に力があると思ってしまいがちだけど、本当に力があるのは私たち市民のほう。支持率がなければ権力者は上に立てません。歴史を見ても、どんな変化も私たちが動いたことで起きています。市民運動のパワーはすごいんですよ。世の中は、白か黒かだけじゃないから、白寄りだけれど消極的な人たちをこちら側に引っ張ってこれたらいいですよね

りりあんさん

「愛にもとづき、愛おしいモノのために語ろう」

目線を近づけポジティブに語りかけるトークに引き込まれ、全4名の講義が終了しました。

「何もしなかった自分より、少しでも何かできた自分で」感想を語り合う

ボリュームたっぷりの講義を終え、力強いメッセージの数々が参加者たちの心に強く刺さった。感想や気づきを語り合うと、発言が尽きなかった。

私はスキーをするために車を運転するし、海外で滑りたいから飛行機にも乗る。それだけでも二酸化炭素をめちゃくちゃ出してる。常に罪悪感は持っているけど、100%自給自足するわけにもいかないから、完璧にとはいかなくても行動を変えていきたいと改めて思いました

印象に残ったのはアラスカの氷河の溶け方。戦争よりもゾクッと怖さを感じるものがありました。あの溶け方を見てしまうと、改めていろんな人にこの現実を伝えなければならない、そう再認識することができました

環境問題というテーマを特別に感じてしまう気持ちもわかる。でもPOWのコミュニティの中で学ぶと、ただ自分たちの遊び場を守り、長く深くずっと遊び続けたいだけなんだと感じさせられます。微力ながらも、伝えていく努力をしたいと思います

POWアンバサダーになるとき、環境のことも詳しくなかったし、悩んで何度かお断りもした。でももしアンバサダーにならなければ、この場にもいないし今日のお話も聞けていない。何もしなかった自分より、少しでも何かできた自分としてここにいられているのが嬉しい

インプットした後のディナーは、身体に沁みるベジタリアン料理

2日目のディナーには、農薬を使用しない循環型農法で作られた野菜を使った地産地消のベジタリアン料理が出された。冬場はマイナス15℃にもなる大町の気候をいかした、5品の「凍らせ食材で作る料理」がビュッフェ形式で並ぶ。ディナー中も興奮は覚めやらず、他の参加者たちの視点から学び続ける時間になった。

裏でアンバサダーへの個別取材を終え遅れてディナー会場に着席すると、POW代表の小松さんとお話できたので「最近モチベーション高くやっていることは?」と聞いてみた。すると「スノーボードかな」と直球な答えが返ってきた。白馬に移住してきたひと回り以上も年下のトップスノーボーダーと滑るのが、今改めて楽しいのだそう。

「全然ついていけないけどね」と笑いながらも、彼をきっかけに若い滑り手とも繋がれて、それがPOWの活動にも活きていると話してくれた。POWのムーブメントには、若い滑り手のエネルギーが欠かせない。そう力を込める理由が、3日目のゲストに隠されていた。

この学びをアクションに──冬を守る仲間たちとできること

最終日の朝。前日と同じく参加者たちが好きなように朝の時間を味わう中、会場ホールの横ではPOW事務局のミーティングが行われていた。

3日目は1〜2日目の流れを汲んで組み立てようと、あえて中身を固めずにいた。第一ステップが「仲間づくり」だとしたら、それは昨日までで達成できた。では第二ステップの「仲間とアクションを起こす」を実現するには、あと何が必要だろう? 何かしたい気持ちはあっても、具体的な「アクション」というと動けなくなってしまう人が多くいる。ここまで落とし込むことが今回のサミットのゴールなのではと、方向性が決まっていった。

実は裏ではギリギリまで話し合いが行われていた、最後のワークショップ。その前に、15歳のスノーボーダー・環境活動家である星更沙さんのプレゼンテーションが用意されていた。POW事務局内でもたびたび話題に上がり、スノーコミュニティが今注目する高校1年生。平日のオファーだったが、学校側も活動を認めてくれているそうで、柔軟に引き受けてくれスペシャルゲストトークが実現した。

13歳で環境団体を立ち上げ、子どもにもできるアクションを

2019年、更紗さんの家は台風による洪水で甚大な被害を受け、その年は例年に比べて雪が少ない冬になった。。「どうしてあんなにひどい台風が来たのに、雪が降らないんだろう」。スノーボーダーとして気候の変化にショックを受け、知人の家を転々としながら、難しい環境用語を子どもでもわかる言葉に翻訳する活動から始めていった。

子どもにもできる活動をしようとSDGs KIDS MOVEMENTを立ち上げました。渋谷で行ったゲーム型のゴミ拾いイベントでは、目を輝かせてゴミを拾う子どもの姿がメディアに注目され、たくさんの協賛を得ることもできました。システムを変えるには経済を動かす必要があると気づき、今は海洋プラスティックを買い取って循環させるプロジェクトなどを企業とコラボして進めています。たったひとりで始めた活動が、世界を動かしはじめています

更沙さん

そんな更沙さんの夢は、スノーボードでオリンピックに出場し、影響力をつけて環境財団を作ること。ここに集うアンバサダーたちと同じ道のりの先で、自分にしかできないアクションを起こしている環境活動の先輩から、行動に移すために必要なエッセンスを学んだ。

冬を守るために、仲間と共に行動する

最後のワークショップは、元パタゴニア日本支社長で社会活動家/ソーシャルビジネスコンサルタントの辻井隆行さんによるファシリテートで、仲間と共に周りを巻き込んでアクションを起こしていくために必要なことを考えた。

先ほどの更沙ちゃんの話に、皆さん圧倒されているでしょうか。どんどん人を巻き込み、企業まで巻き込んで、ムーブメントを創っていく。この流れに正解はありません。限界も決めなくていい。こういう未来になったらいいなという理想を、自由な発想で考えてみましょう

辻井さん

ワーク①「誰を巻き込みたいか」

たくさんのことを学び、次のステップは何かをすること。そのために誰を巻き込む? というテーマで、グループになり大きな模造紙の上に書き込んだ付箋を貼っていく。

  • スノーボーダー、スキー場、家族、身近な友達、行政、アスリート、日本索道、SAJ、村、マーク・ザッカーバーグ、農家、軽井沢の森ネットワーク、妻、同僚、プーチン、仲間が多い人、アーティスト、飲食店、インフルエンサー、キングコング西野さん、貴族、交通インフラ、星野リゾート

これらは挙げられたままの言葉たち。身近なところから考える人もいれば、スノーコミュニティならではの具体的な企業・団体名も挙がる。平田さんの「個人の努力ではなくシステムチェンジを」という言葉が頭に残り、政治や行政のトップなど大きなところを書く人もいた。多種多様なステークホルダーがリストアップされ、社会の全体感が見えてくる。

付箋をジャンルで分類し、どうやって繋がるかを考えていく。今はSNSやYouTubeなどインターネットで人と繋がれる仕組みがたくさんあるが、スキーヤー・スノーボーダーらしく「一緒に外で遊ぶ」「スノーボードに連れて行く」など自分が楽しんでいる自然環境に巻き込んでいくスタイルが目立った。

ワーク②「巻き込んだ人と何をしたいか」

次は付箋の色を変え、空きスペースに「彼らを巻き込んで何をしたいか」を貼っていった。

  • サステナブルな商品開発、啓発イベントの開催、スキーウェアのリユース、商品のリサイクルやアップサイクル、遊びと学びの場づくり、署名活動をする、お金を集める、映画を作る、地元のフィールドを知る機会を作る

カラフルな付箋で埋め尽くされ、話し合ううちに大きく2種類のアプローチに分けられることが見えてくる。できた仲間と大きな組織に働きかけるボトムアップ型か、先に上流に働きかけて動きながら仲間を増やしていくトップダウン型か。どちらがいいか正解はないが、どうやったらみんなでひとつになれるか熱いディスカッションが続いた。

これまで数々の場でこのワークショップを開催してきた辻井さんは、「日本に足りないものがここ(POWを取り巻くコミュニティ)には全部ある」と驚きを見せる。一般企業などで同じワークを行うと、迷ってしまいなかなかアイデアが出せない人が多いそうだ。その点、根を張る世界とやるべきことがはっきりしているこの集まりでは、模造紙に収まりきらないほどのアイデアが溢れた。

とりあえずごはんに誘えばいいんじゃないか。学びのPOWキャラバンツアーはどうだろう。PayPayならぬPowPowを作ってしまおう。NFTやDAOと絡めるのもありかもしれない。雪山で乗る車はEVカーに変えていける。地元のお祭りとの連携もやってみたい。

まさにスノーコミュニティらしい自由な発想。せっかくやるなら、楽しくポジティブに。どんなに偉い人が相手でも、スノーフィールドで遊ぶときには敬語はいらない。一緒に滑ってこのコミュニティに巻き込めば、むしろ自分たちから教えられることがたくさんあるし、きっと仲間になってもらえるのではないか。

そんな本質的な結論が導き出されたところで、サミットは終盤を迎えた。

一人ひとこと、37人のラップアップ

最後はPOW事務局メンバーも含めて輪になり、一人ひとことずつでのラップアップが回された。行動力、仲間、心のゆとり、知識、システムチェンジ、専門家──。各々キーワードに落とし込み、3日間の気づきを共有する。

「ここにいるみんなとだったら、大きな変化をもたらせると確信した」

37人のポジティブなエネルギーがこの時間を持ってひとつになった。ベースを作る期間はこれにて終了。明日からこの輪を2倍にも3倍にも広げていくことが、ここにいる全員のミッションとなった。

POW事務局長の高田さんは「3日間のサミットを終えて、もっとこうすればよかったという後悔はひとつもない。イメージしてたものを遥かに越える時間になった。ここにいるみんなと、これから一緒に活動していけるのがすごく楽しみ」と締めくくった。サミットを終えまた日本全国へと散らばっていった仲間たちと、ようやくここから新しい章が幕を開ける。

POWが目指すのは、環境問題に取り組む日本一大きなコミュニティだ。今ある環境団体のどこよりも大きな輪を、スキー・スノーボードの世界から本気で生み出そうとしている。このメンバーが秘めたエネルギーを爆発させれば、本当にそれは近いうちに成し遂げられてしまうのではないか。そう思わせてくれた3日間を見届けた今、これからのPOWの活動がますます楽しみになった。

Edit & Write: Ryoko Wanibuchi @ryokown
Photo: Ayako Niki @247nikiimages
Movie: Kazushige Fujita @forestlogd 

サミット2022を終えて──参加者にインタビュー

サミットに参加した8名に、インタビュー。濃厚な3日間を終え、アンバサダー、パートナー、ボランティア、それぞれの立場からの率直な気持ちを語ってもらいました。