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豊かな暮らしとフィールドでの遊び、
仕事の理想的なバランスを目指して

Lisa Obinata

「私たちの愛する冬を気候変動から守り、未来につなぐ」という理念の下、2018年に活動をスタートした非営利の環境団体POW JAPAN。現在、5人の事務局メンバーを中心に、スノーコミュニティ発の脱炭素社会の実現というビジョンに向かって、さまざまな取り組みを行っている。発足3年目にして、数々のミッションをクリアしてきた彼らだが、もともと環境問題の専門家でもなければ、組織を運営してきた経歴もない。共通するのはスキー、スノーボードをこよなく愛し、自然に囲まれた場所で暮らしているということ。それぞれのライフスタイルと調和したPOW JAPANでの“働き方”を、3人の事務局メンバーが語り合う。

左からPOW JAPAN事務局の脊戸柳武彦、髙田翔太郎、鈴木瞳

POW JAPANに関わるキッカケ

ー まず、みなさんがPOW JAPANに関わることになった経緯を教えてください。

高田翔太郎(以下、翔太郎):POW JAPANは2018年にスノーボーダーの小松吾郎さんを中心に発足したのですが、設立準備の段階で、さまざまな環境団体の支援をしているパタゴニア社も関わっていたそうです。僕は2016年までパタゴニアで働き、1年半ニュージーランドを旅して大町(長野県)に帰ってきたころ、パタゴニア環境部を通じてPOW JAPAN設立の話を聞いて。POW Internationalの活動については知っていたし、ちょうど会社に所属して働くつもりもなく、長い旅を通じて地域のことや環境のことに関わりたい気持ちが芽生えていたので、「これは何かの縁だな」と思い、立ち上げメンバーに加わることになりました。

脊戸柳武彦(以下、セト):僕がPOWを知ったキッカケは2011年2月にジェレミー・ジョーンズがフィルムの撮影で白馬に来たときに、登り口でばったり会って一緒に写真を撮ってもらったことがありました。その後彼の作品を頻繁に見るようになり、ジェレミーが立ち上げたPOWの活動も意識するようになったんです。

当時、僕はサラリーマンで、毎週末スキーをするために宇都宮(栃木県)から白馬に通っていました。パタゴニア白馬にも通うようになり、翔太郎くんと知り合ったんです。彼との話は面白くて、一緒にサーフィンに行ったり、刺激を受けました。

のちに会社を辞めて、白馬に家をセルフビルドで建て始めたころ、翔太郎くんと再会しPOW JAPANが立ち上がったことを知りました。

それまでもビーチクリーンとかは日常的にやっていたけれど、ひとりでやっていても変わらないよな、という気持ちがありました。滑り手による環境団体ができて、アクションを広める活動ができるのは面白い、と思い、2019年5月のシンポジウムにボランティアで参加したのがキッカケです。

鈴木瞳(以下、瞳):私は2019年の冬にPOW JAPANに入りました。それまでは神奈川に住んでいたんですけど、いつか自然に近いところで暮らしたいなという思いがありました。そんなときに「POW JAPANで人を探しているよ」という情報が入り、すぐにピンときて翔太郎さんに連絡を取りました。3日後くらいには大町で小松吾郎さん、由紀子さん(プロジェクトオーガナイザー、吾郎の妻)、翔太郎さんとお会いしてトントン拍子に決まったんです。その冬は、白馬の宿で居候させてもらいながらPOWでの仕事を始めました。

セトが活動へのきっかけとなった2019年5月のシンポジウム。右から2番目が小松吾郎(代表理事)、4番目が翔太郎

ー 立ち上がったばかりの団体で仕事の内容や勤務形態も、最初はイメージがつきにくかったのでは?

瞳:POWのことは知っていたけれど、実際何をやっているかはよくわかっていなかったですね。でも環境問題に対してシリアスに向き合う団体ではなく、スキー、スノーボードが好きだからこそ、冬や自然を守りたいというポジティブなムーブメントに強く共感しました。生活に多少の不安はありましたが、翔太郎さんには、住む場所もなんとかなるよって言われて、来てみれば確かに何とかなりましたし(笑)、POWでの働き方も、移住した安曇野(長野県)での暮らしもとても気に入っています。

セト:僕はPOWの仕事に携わるようになって、3年で完成予定の家作りが少し遅れていますが(笑)。今は直江津(新潟県上越市)の海の近くに家を借りていて、週4~5が直江津、週2~3が白馬という感じですね。POWの仕事はリモート中心でやらせてもらっています。

翔太郎:正直、始めた当初は環境団体の運営の仕方とか、POWで働く中身を具体的にイメージはできていなかったですね。その都度チャレンジしていく中で、徐々に掴めてきた感じです。みんなで学び実践しながら、今の形になっています。

週に1度、白馬のシェアオフィスをお借りして、進捗などを確認するミーティングを実施。それ以外は各自で作業を進めるのが基本のスタイル

どんな仕事をしているのか

ー POW JAPANの主な事業内容を教えてもらえますか?

瞳:大きく3つの軸があります。ひとつは、より多くの人たちに活動や気候変動問題について知ってもらい、仲間を増やしていくこと。ふたつ目は啓蒙活動や教育。学校やスキー場に対して、気候変動についての講習会を行っています。3つ目は脱炭素社会に向かって取り組んでいくこと。スキー場や自治体と連携し、どうやって脱炭素を目指していけるか、具体的に動くことです。

ー 5人のチームでの役割分担はどんな内容なのですか?

瞳:私のメインの役割は発信。WEBやSNSを中心に、様々な情報を整理して伝えていく仕事です。

翔太郎:発信するにしても、その情報を整えないとならなくて、彼女はその能力に非常に長けているので、発信だけでなく、新しいプロジェクトを構築していくベース作りなども一緒にやっていますね。

セト:僕は毎週開催している事務局ミーティングで各プロジェクトの進捗確認や進行役と、いくつかのプロジェクトを担当しています。「Hot Planet Cool Athletes」という、中高生に向けてPOWのアンバサダーが気候変動について話をする環境教育プログラムでは、資料作成から学校とのコーディネートをしています。それと、今年の初めからオープンしたオンラインショップは立ち上げと、日々の運営も担当しています。

瞳:セトさんは誰よりも細かく、わかりやすく設計できるんです。

セト:サラリーマン生活長かったので、染み付いていますね。前職でも商品企画をやっていたので、活かせている部分もあるかと思います。

翔太郎:セトさんにPOWの話を投げかけたときもこの人なら!という直感のようなものが最初からありました。セルフビルドで家を全部自分の手で作ろうなんて、なかなかできることじゃない。最近は、企業とのコミュニケーションを手伝ってもらうことも増えてきました。

瞳:翔太郎さんの役割はまさに「マルチタスク」(笑)。POW JAPANの全体観やディテールも見つつ、対外的なコミュニケーションをほとんど回してくれています。周囲からの信頼感がすごくて、POWの枠を越えて町の人からもとても頼られている存在です。

セト:翔太郎くんは見極めがすごいですね。これには力を入れよう、ここは今じゃない、といった力の入れ具合や決断力の速さが活きていると思います。

瞳:今、事務局は5人なんですが、特徴的なのは上司も部下もいないってことですかね。それぞれの役割をこなしながら、一緒に考えカタチにしていくこともあって、それらが有機的に機能している感じです。

セルフビルドの完成に向けて急いでいるものの、雪も待ってはくれない(セト)

雇用条件と勤務体制

ー 非営利団体ということですが、皆さんのお給料というか報酬はどのように支払われているのですか?

翔太郎:一番大きいのはパートナー企業からの協賛金です。あと個人サポーターからの寄付やオンラインショップの売り上げがあります。それと環境的な助成金も効果的に活用していて、そこからPOWのプロジェクトやキャンペーンの費用、メンバーの報酬などが支払われています。就業規則での労働時間は、自分の場合は週5、1日6時間ですが、勤務形態はそれぞれ異なります。

瞳:週1で集まってミーティングをしているのですが(オンライン参加ももちろんOK)、それ以外はそれぞれ自分の裁量で仕事の進め方を決めています。作業の場所は自宅、コワーキングスペース、海辺(笑)などなど・・・時間や場所にとらわれません。もちろん必要があればメンバーでオンラインミーティングしたり、情報共有したりしています。

セト:スーパーフレックスですね。

ー 他の仕事と兼業という方は?

翔太郎:由紀子さんはご自身でやられている飲食販売をやっていたり、宿の手伝いもしていますね。

瞳:私も友達のお仕事を少し手伝っています。

セト:僕は自分の家を建てるくらい(笑)。

瞳:会社勤めのときは週5、1日8時間勤務のデスクワークだったんですけれど、今は誰かに時間を縛られず自分で決めて動くので、その分責任は大きくなると思うけれど、暮らしを組み立てられて楽しいです。

セト:僕も以前は毎日オフィスに通っていたので、全く違う働き方になりました。確かに自分でコントロールできるんだけど、より良くしようと思うとエンドレスで仕事をやってしまうこともあって・・・今はオンオフの切り替えをきちんとできるように、気をつけています。

瞳:翔太郎さんもセトさんも、パパ業もしながら、畑や家事に、遊びも手を抜かないっていうのがすごいんですよ。

畑仕事が暮らしの一部(翔太郎) Photo: 栗田萌瑛

日常のルーティーン

ー 1日の過ごし方はどんな感じですか?

セト:僕は6歳と3歳の子供がいるんですが、子供が起きる前に一仕事ですね。デスクワークや畑仕事、波がいいときはサーフィンに行ったり。サーフィンは仕事じゃないですね(笑)。それから朝食・弁当の準備をして、働きに出かける妻と、子供たちを送り出します。家事を片付けたらデスクワークに戻って夕方までやって、夕食の準備をします。平日の家事は大体僕がやって、週末は大工さんですね。

翔太郎:僕も朝は早めに起きて、コーヒー飲んだり新聞読んだりして、7時半には妻と娘が出かけるので、そこからが自分の時間です。朝食は食べずに、朝のこの時間帯が最もパキパキ仕事をしています。9時くらいからは打ち合わせや外での用事も入りやすいので、デスクワークは朝一集中します。外出がなければ、そのままデスクワークしたり、家の作業をしたり、畑をやったり。夕飯の準備も自分の仕事ですね。ずっとデスクワークだと疲れてしまうから、天気や外仕事の状況を見ながら、パソコンの前と庭や畑を行ったり来たりしてます。

セト:ちょっと離れると気分転換になりますよね。デスクワークと体を使う時間が混ざると効率もいいような気がします。

瞳:自然豊かなところに暮らしているからこその働き方ですね。

翔太郎:イベントとかがない限り17時以降は仕事をしないようにしてるんです。子供も帰ってくるし、酒も飲みたいし、家族との時間も大切にしたいので、夜はゆっくりする。それでもメールや連絡はバンバン来るので、チラッチラッと確認しながら、翌朝一気にやるようにしていますね。

セト:ちゃんとメリハリつけてるんですね。

瞳:波(サーフィン)や雪(スキー、スノーボード)との折り合いは?

翔太郎:それは優先ですね!(笑) 冬は午前中は滑り優先だから、大変といえば大変ですね。打ち合わせの時間なども、一週間先の波と雪の予報をチェックしながら重ならないように、上手いこと調整しています。

瞳:私は朝にヨガの練習をしたり畑作業を手伝って、9時くらいからPOWの仕事というパターンが多いです。農家さんのお手伝いや山遊びなど好きなことに時間を使うために、早朝や少し遅めの時間帯など仕事の時間を調整することもあります。事務局の皆にサポートしてもらいながら、知床の山に滑りに行ったり、ヨガの資格を取るために長期休暇をいただくこともありました。

日程調整の際は、カレンダーに加えて、天気図で波や雪の状況を確認が必須。そして家族への感謝も忘れずに(翔太郎) Photo: 330photogalleries。

ー 休みの規定はあるんですか?

翔太郎:特にないですね。雇用契約の範囲内で好きなときに休んで、業務に支障をきたさなければ自由という感じですね。それぞれ自分の裁量に合わせて働いています。

瞳:一般的な会社とは違って、誰かにお伺いを立てるというのはないんです。自分がやるべきことに責任を持つという感じ。目的を達成するために何をするか、どんな裁量でやるかは自分で考える。もちろんメンバーに相談したり、一緒に考えていきますが、指示を待つことはほとんどない。そこに面白さがあると思います。

休暇を利用して、仲間とともに知床岳へ(瞳)

やりがいを感じる瞬間

ー POWの活動を通じて、どんなことにやりがいを感じますか?

セト:最近の手応えとしては、Hot Planet Cool Atheltesをこれまで5校で開催したんですが、そのうち2校からは「毎年やってほしい」と言ってもらえたことです。特に良かったのは、生徒だけでなく、先生方もすごく刺激を受けてくれたことですかね。学校の授業では伝えられないことを、アスリートが伝えるということがこのプロジェクトの重要なところで、話を聞いた人たちに響き始めているというフィードバックがすごく嬉しかったですね。生徒さんの中にも「アースデーに参加してきました」とか、「私も自分で資料作って周りに気候変動について伝えます!」という子がいたり。プログラムを開催した後に、大人も子供も意識が変わったというのが感じられて、やって良かったなと思いました。

瞳:私の場合は、いかにキャンペーンに多くの人を巻き込めるかをデザインして実践するのが毎回のチャレンジ。だんだんとPOWのオーディンスの皆さんがともに行動してくれている感覚を得てきて、とても嬉しいです。もともと環境問題を含む社会課題に対してワクワクするような仕掛け作りができたらいいなと思っていたんです。それが仕事として実現できていて面白いですね。扱う問題は深刻で壮大なんだけれども、みんながムーブメントにのっていくキッカケ作りができたり、一緒に作っているような実感があります。

翔太郎:基本的に常に新しいことをやっているので、自然とスキルアップできる機会が多いですね。また、縦割りな組織ではないので、自分の得意なこと、やってみたいことにチャレンジする機会も恵まれています。

活動の中で興奮したのは、社会の仕組みが変わった瞬間に立ち合えたとき。たとえば白馬村が「気候非常事態宣言」を出したときも、情報を聞きつけて議会を見に行って村長の宣言を直接聞いたり、到底先の話だと思っていたけれど、気づいたら白馬のスキー場が再エネをどんどん取り入れていたり。2シーズン前に「白馬バレーのスキー場を100%自然エネルギーに切り替えていきましょう」という応援署名を1万5000票集めたんですね。最終的には白馬バレーツーリズムとして、10の全てのスキー場が「2025年までに再エネ切り替えに着手します」という宣言を出したんです。そういった大きな変化を実感できたときはやりがいを感じますね。

セト:それは大きいですよね。最初に僕が言ったようにこれらは個人でやっていてもできないこと。アウトドアに特化したこういう団体があるから、みんなの力でやりたかったことができているような感じはしますね。

翔太郎:大きなことが動いたとき、結果はもちろんだけど、プロセスを全部見てるんですね。いろんな人が関わって長い時間かけているからこそ、ドラマもあって。そのプロセスをトータルで知っているからより感動的なのかもしれないです。それはPOWの内側にいるからこそ見えてくることで、働くモチベーションにもなっています。

瞳:そのプロセスが一番タフで大事ですね。事務局は5人だけど、本当にたくさんの方が関わって、みんなで作り上げている感って大きいですね。

2019年9月のグローバル気候マーチin白馬。高校生を中心に白馬の仲間たちとともに村長へ嘆願書を手渡ししたことが、後に白馬村の「気候非常事態宣言」につながる

こんな人に来てほしい!

新たな人員募集ということで、皆さんはどんな人に仲間に入ってもらいたいですか?

セト:また僕らとも違うところに興味がある方が来てくれたらいいですね。新たな刺激が加わるような。滑りが好きな人は大前提だけれども。

瞳:たとえば「地方での暮らしに興味はあるけれど今は都会で会社勤めしている」みたいな方だと、収入面や働き方の違いに不安を感じるかもしれないけれど、そういう方こそ、今まで培ってきた経験を活かして、ライフスタイルとの共存を楽しんでほしいですね。

翔太郎:お金の価値観って人それぞれじゃないですか。たとえば有機農業で小さく農業やってる人と、農薬をバンバン使ってるけど大量に出荷して稼いでる人、どちらの行為が価値があるのか、お金だけではわからないですよね。金銭的価値だけでないところに価値を見出せたり、仕事の中身や働いている仲間など、いま自分が向き合っているものに対して、ポジティブに捉えられる人だといいですね。

瞳:わかります。私も収入は(それまでと比べて)減りましたが、以前と比べて暮らしも心も体も豊かなんです。仕事として仲間とともに気候変動に向き合うのはとても意味があることですし、この働き方だからこそいい意味で仕事と暮らし、遊びの境目がない。都会の働き方では仕事が人生の大半になってしまうことが多いですからね。

翔太郎:とはいえ、家庭があったり、最低限必要な収入というのもあると思うので、そこに近づけるように組織として努力はするし、継続的に給与アップの機会も作り、徐々に持続的な職場環境も整えていきます。

セト:僕もサラリーマン時代よりも充実感があります。製造業だったので新しい製品を生み出すことで世の中へ貢献する点でやりがいがありましたが、すでにモノが十分にある中で続けて行くことに違和感を持っていました。自分の理想のライフスタイルに近づきながら、気候変動という急務の問題解決のために、サステイナブルな社会へシフトしていく活動に、自分の好きなアウトドアスポーツを軸として関わっていることに充実を感じています。

豊かな暮らしとフィールドでの遊び、
仕事の理想的なバランスを目指して

Lisa Obinata

「私たちの愛する冬を気候変動から守り、未来につなぐ」という理念の下、2018年に活動をスタートした非営利の環境団体POW JAPAN。現在、5人の事務局メンバーを中心に、スノーコミュニティ発の脱炭素社会の実現というビジョンに向かって、さまざまな取り組みを行っている。発足3年目にして、数々のミッションをクリアしてきた彼らだが、もともと環境問題の専門家でもなければ、組織を運営してきた経歴もない。共通するのはスキー、スノーボードをこよなく愛し、自然に囲まれた場所で暮らしているということ。それぞれのライフスタイルと調和したPOW JAPANでの“働き方”を、3人の事務局メンバーが語り合う。

左からPOW JAPAN事務局の脊戸柳武彦、髙田翔太郎、鈴木瞳
POW JAPANに関わるキッカケ
ー まず、みなさんがPOW JAPANに関わることになった経緯を教えてください。
高田翔太郎(以下、翔太郎):POW JAPANは2018年にスノーボーダーの小松吾郎さんを中心に発足したのですが、設立準備の段階で、さまざまな環境団体の支援をしているパタゴニア社も関わっていたそうです。僕は2016年までパタゴニアで働き、1年半ニュージーランドを旅して大町(長野県)に帰ってきたころ、パタゴニア環境部を通じてPOW JAPAN設立の話を聞いて。POW Internationalの活動については知っていたし、ちょうど会社に所属して働くつもりもなく、長い旅を通じて地域のことや環境のことに関わりたい気持ちが芽生えていたので、「これは何かの縁だな」と思い、立ち上げメンバーに加わることになりました。
脊戸柳武彦(以下、セト):僕がPOWを知ったキッカケは2011年2月にジェレミー・ジョーンズがフィルムの撮影で白馬に来たときに、登り口でばったり会って一緒に写真を撮ってもらったことがありました。その後彼の作品を頻繁に見るようになり、ジェレミーが立ち上げたPOWの活動も意識するようになったんです。
当時、僕はサラリーマンで、毎週末スキーをするために宇都宮(栃木県)から白馬に通っていました。パタゴニア白馬にも通うようになり、翔太郎くんと知り合ったんです。彼との話は面白くて、一緒にサーフィンに行ったり、刺激を受けました。
のちに会社を辞めて、白馬に家をセルフビルドで建て始めたころ、翔太郎くんと再会しPOW JAPANが立ち上がったことを知りました。
それまでもビーチクリーンとかは日常的にやっていたけれど、ひとりでやっていても変わらないよな、という気持ちがありました。滑り手による環境団体ができて、アクションを広める活動ができるのは面白い、と思い、2019年5月のシンポジウムにボランティアで参加したのがキッカケです。
鈴木瞳(以下、瞳):私は2019年の冬にPOW JAPANに入りました。それまでは神奈川に住んでいたんですけど、いつか自然に近いところで暮らしたいなという思いがありました。そんなときに「POW JAPANで人を探しているよ」という情報が入り、すぐにピンときて翔太郎さんに連絡を取りました。3日後くらいには大町で小松吾郎さん、由紀子さん(プロジェクトオーガナイザー、吾郎の妻)、翔太郎さんとお会いしてトントン拍子に決まったんです。その冬は、白馬の宿で居候させてもらいながらPOWでの仕事を始めました。
セトが活動へのきっかけとなった2019年5月のシンポジウム。右から2番目が小松吾郎(代表理事)、4番目が翔太郎
ー 立ち上がったばかりの団体で仕事の内容や勤務形態も、最初はイメージがつきにくかったのでは?
瞳:POWのことは知っていたけれど、実際何をやっているかはよくわかっていなかったですね。でも環境問題に対してシリアスに向き合う団体ではなく、スキー、スノーボードが好きだからこそ、冬や自然を守りたいというポジティブなムーブメントに強く共感しました。生活に多少の不安はありましたが、翔太郎さんには、住む場所もなんとかなるよって言われて、来てみれば確かに何とかなりましたし(笑)、POWでの働き方も、移住した安曇野(長野県)での暮らしもとても気に入っています。
セト:僕はPOWの仕事に携わるようになって、3年で完成予定の家作りが少し遅れていますが(笑)。今は直江津(新潟県上越市)の海の近くに家を借りていて、週4~5が直江津、週2~3が白馬という感じですね。POWの仕事はリモート中心でやらせてもらっています。
翔太郎:正直、始めた当初は環境団体の運営の仕方とか、POWで働く中身を具体的にイメージはできていなかったですね。その都度チャレンジしていく中で、徐々に掴めてきた感じです。みんなで学び実践しながら、今の形になっています。
週に1度、白馬のシェアオフィスをお借りして、進捗などを確認するミーティングを実施。それ以外は各自で作業を進めるのが基本のスタイル
どんな仕事をしているのか
ー POW JAPANの主な事業内容を教えてもらえますか?
瞳:大きく3つの軸があります。ひとつは、より多くの人たちに活動や気候変動問題について知ってもらい、仲間を増やしていくこと。ふたつ目は啓蒙活動や教育。学校やスキー場に対して、気候変動についての講習会を行っています。3つ目は脱炭素社会に向かって取り組んでいくこと。スキー場や自治体と連携し、どうやって脱炭素を目指していけるか、具体的に動くことです。
ー 5人のチームでの役割分担はどんな内容なのですか?
瞳:私のメインの役割は発信。WEBやSNSを中心に、様々な情報を整理して伝えていく仕事です。
翔太郎:発信するにしても、その情報を整えないとならなくて、彼女はその能力に非常に長けているので、発信だけでなく、新しいプロジェクトを構築していくベース作りなども一緒にやっていますね。
セト:僕は毎週開催している事務局ミーティングで各プロジェクトの進捗確認や進行役と、いくつかのプロジェクトを担当しています。「Hot Planet Cool Athletes」という、中高生に向けてPOWのアンバサダーが気候変動について話をする環境教育プログラムでは、資料作成から学校とのコーディネートをしています。それと、今年の初めからオープンしたオンラインショップは立ち上げと、日々の運営も担当しています。
瞳:セトさんは誰よりも細かく、わかりやすく設計できるんです。
セト:サラリーマン生活長かったので、染み付いていますね。前職でも商品企画をやっていたので、活かせている部分もあるかと思います。
翔太郎:セトさんにPOWの話を投げかけたときもこの人なら!という直感のようなものが最初からありました。セルフビルドで家を全部自分の手で作ろうなんて、なかなかできることじゃない。最近は、企業とのコミュニケーションを手伝ってもらうことも増えてきました。
瞳:翔太郎さんの役割はまさに「マルチタスク」(笑)。POW JAPANの全体観やディテールも見つつ、対外的なコミュニケーションをほとんど回してくれています。周囲からの信頼感がすごくて、POWの枠を越えて町の人からもとても頼られている存在です。
セト:翔太郎くんは見極めがすごいですね。これには力を入れよう、ここは今じゃない、といった力の入れ具合や決断力の速さが活きていると思います。
瞳:今、事務局は5人なんですが、特徴的なのは上司も部下もいないってことですかね。それぞれの役割をこなしながら、一緒に考えカタチにしていくこともあって、それらが有機的に機能している感じです。
セルフビルドの完成に向けて急いでいるものの、雪も待ってはくれない(セト)
雇用条件と勤務体制
ー 非営利団体ということですが、皆さんのお給料というか報酬はどのように支払われているのですか?
翔太郎:一番大きいのはパートナー企業からの協賛金です。あと個人サポーターからの寄付やオンラインショップの売り上げがあります。それと環境的な助成金も効果的に活用していて、そこからPOWのプロジェクトやキャンペーンの費用、メンバーの報酬などが支払われています。就業規則での労働時間は、自分の場合は週5、1日6時間ですが、勤務形態はそれぞれ異なります。
瞳:週1で集まってミーティングをしているのですが(オンライン参加ももちろんOK)、それ以外はそれぞれ自分の裁量で仕事の進め方を決めています。作業の場所は自宅、コワーキングスペース、海辺(笑)などなど・・・時間や場所にとらわれません。もちろん必要があればメンバーでオンラインミーティングしたり、情報共有したりしています。
セト:スーパーフレックスですね。
ー 他の仕事と兼業という方は?
翔太郎:由紀子さんはご自身でやられている飲食販売をやっていたり、宿の手伝いもしていますね。
瞳:私も友達のお仕事を少し手伝っています。
セト:僕は自分の家を建てるくらい(笑)。
瞳:会社勤めのときは週5、1日8時間勤務のデスクワークだったんですけれど、今は誰かに時間を縛られず自分で決めて動くので、その分責任は大きくなると思うけれど、暮らしを組み立てられて楽しいです。
セト:僕も以前は毎日オフィスに通っていたので、全く違う働き方になりました。確かに自分でコントロールできるんだけど、より良くしようと思うとエンドレスで仕事をやってしまうこともあって・・・今はオンオフの切り替えをきちんとできるように、気をつけています。
瞳:翔太郎さんもセトさんも、パパ業もしながら、畑や家事に、遊びも手を抜かないっていうのがすごいんですよ。
畑仕事が暮らしの一部(翔太郎) Photo: Moe Kurita
日常のルーティーン
ー 1日の過ごし方はどんな感じですか?
セト:僕は6歳と3歳の子供がいるんですが、子供が起きる前に一仕事ですね。デスクワークや畑仕事、波がいいときはサーフィンに行ったり。サーフィンは仕事じゃないですね(笑)。それから朝食・弁当の準備をして、働きに出かける妻と、子供たちを送り出します。家事を片付けたらデスクワークに戻って夕方までやって、夕食の準備をします。平日の家事は大体僕がやって、週末は大工さんですね。
翔太郎:僕も朝は早めに起きて、コーヒー飲んだり新聞読んだりして、7時半には妻と娘が出かけるので、そこからが自分の時間です。朝食は食べずに、朝のこの時間帯が最もパキパキ仕事をしています。9時くらいからは打ち合わせや外での用事も入りやすいので、デスクワークは朝一集中します。外出がなければ、そのままデスクワークしたり、家の作業をしたり、畑をやったり。夕飯の準備も自分の仕事ですね。ずっとデスクワークだと疲れてしまうから、天気や外仕事の状況を見ながら、パソコンの前と庭や畑を行ったり来たりしてます。
セト:ちょっと離れると気分転換になりますよね。デスクワークと体を使う時間が混ざると効率もいいような気がします。
瞳:自然豊かなところに暮らしているからこその働き方ですね。
翔太郎:イベントとかがない限り17時以降は仕事をしないようにしてるんです。子供も帰ってくるし、酒も飲みたいし、家族との時間も大切にしたいので、夜はゆっくりする。それでもメールや連絡はバンバン来るので、チラッチラッと確認しながら、翌朝一気にやるようにしていますね。
セト:ちゃんとメリハリつけてるんですね。
瞳:波(サーフィン)や雪(スキー、スノーボード)との折り合いは?
翔太郎:それは優先ですね!(笑) 冬は午前中は滑り優先だから、大変といえば大変ですね。打ち合わせの時間なども、一週間先の波と雪の予報をチェックしながら重ならないように、上手いこと調整しています。
瞳:私は朝にヨガの練習をしたり畑作業を手伝って、9時くらいからPOWの仕事というパターンが多いです。農家さんのお手伝いや山遊びなど好きなことに時間を使うために、早朝や少し遅めの時間帯など仕事の時間を調整することもあります。事務局の皆にサポートしてもらいながら、知床の山に滑りに行ったり、ヨガの資格を取るために長期休暇をいただくこともありました。
日程調整の際は、カレンダーに加えて、天気図で波や雪の状況を確認が必須。そして家族への感謝も忘れずに(翔太郎) Photo: 330photogalleries。
ー 休みの規定はあるんですか?
翔太郎:特にないですね。雇用契約の範囲内で好きなときに休んで、業務に支障をきたさなければ自由という感じですね。それぞれ自分の裁量に合わせて働いています。
瞳:一般的な会社とは違って、誰かにお伺いを立てるというのはないんです。自分がやるべきことに責任を持つという感じ。目的を達成するために何をするか、どんな裁量でやるかは自分で考える。もちろんメンバーに相談したり、一緒に考えていきますが、指示を待つことはほとんどない。そこに面白さがあると思います。
休暇を利用して、仲間とともに知床岳へ(瞳)
やりがいを感じる瞬間
ー POWの活動を通じて、どんなことにやりがいを感じますか?
セト:最近の手応えとしては、Hot Planet Cool Atheltesをこれまで5校で開催したんですが、そのうち2校からは「毎年やってほしい」と言ってもらえたことです。特に良かったのは、生徒だけでなく、先生方もすごく刺激を受けてくれたことですかね。学校の授業では伝えられないことを、アスリートが伝えるということがこのプロジェクトの重要なところで、話を聞いた人たちに響き始めているというフィードバックがすごく嬉しかったですね。生徒さんの中にも「アースデーに参加してきました」とか、「私も自分で資料作って周りに気候変動について伝えます!」という子がいたり。プログラムを開催した後に、大人も子供も意識が変わったというのが感じられて、やって良かったなと思いました。
瞳:私の場合は、いかにキャンペーンに多くの人を巻き込めるかをデザインして実践するのが毎回のチャレンジ。だんだんとPOWのオーディンスの皆さんがともに行動してくれている感覚を得てきて、とても嬉しいです。もともと環境問題を含む社会課題に対してワクワクするような仕掛け作りができたらいいなと思っていたんです。それが仕事として実現できていて面白いですね。扱う問題は深刻で壮大なんだけれども、みんながムーブメントにのっていくキッカケ作りができたり、一緒に作っているような実感があります。
翔太郎:基本的に常に新しいことをやっているので、自然とスキルアップできる機会が多いですね。また、縦割りな組織ではないので、自分の得意なこと、やってみたいことにチャレンジする機会も恵まれています。
活動の中で興奮したのは、社会の仕組みが変わった瞬間に立ち合えたとき。たとえば白馬村が「気候非常事態宣言」を出したときも、情報を聞きつけて議会を見に行って村長の宣言を直接聞いたり、到底先の話だと思っていたけれど、気づいたら白馬のスキー場が再エネをどんどん取り入れていたり。2シーズン前に「白馬バレーのスキー場を100%自然エネルギーに切り替えていきましょう」という応援署名を1万5000票集めたんですね。最終的には白馬バレーツーリズムとして、10の全てのスキー場が「2025年までに再エネ切り替えに着手します」という宣言を出したんです。そういった大きな変化を実感できたときはやりがいを感じますね。
セト:それは大きいですよね。最初に僕が言ったようにこれらは個人でやっていてもできないこと。アウトドアに特化したこういう団体があるから、みんなの力でやりたかったことができているような感じはしますね。
翔太郎:大きなことが動いたとき、結果はもちろんだけど、プロセスを全部見てるんですね。いろんな人が関わって長い時間かけているからこそ、ドラマもあって。そのプロセスをトータルで知っているからより感動的なのかもしれないです。それはPOWの内側にいるからこそ見えてくることで、働くモチベーションにもなっています。
瞳:そのプロセスが一番タフで大事ですね。事務局は5人だけど、本当にたくさんの方が関わって、みんなで作り上げている感って大きいですね。
2019年9月のグローバル気候マーチin白馬。高校生を中心に白馬の仲間たちとともに村長へ嘆願書を手渡ししたことが、後に白馬村の「気候非常事態宣言」につながる
こんな人に来てほしい!
新たな人員募集ということで、皆さんはどんな人に仲間に入ってもらいたいですか?
セト:また僕らとも違うところに興味がある方が来てくれたらいいですね。新たな刺激が加わるような。滑りが好きな人は大前提だけれども。
瞳:たとえば「地方での暮らしに興味はあるけれど今は都会で会社勤めしている」みたいな方だと、収入面や働き方の違いに不安を感じるかもしれないけれど、そういう方こそ、今まで培ってきた経験を活かして、ライフスタイルとの共存を楽しんでほしいですね。
翔太郎:お金の価値観って人それぞれじゃないですか。たとえば有機農業で小さく農業やってる人と、農薬をバンバン使ってるけど大量に出荷して稼いでる人、どちらの行為が価値があるのか、お金だけではわからないですよね。金銭的価値だけでないところに価値を見出せたり、仕事の中身や働いている仲間など、いま自分が向き合っているものに対して、ポジティブに捉えられる人だといいですね。
瞳:わかります。私も収入は(それまでと比べて)減りましたが、以前と比べて暮らしも心も体も豊かなんです。仕事として仲間とともに気候変動に向き合うのはとても意味があることですし、この働き方だからこそいい意味で仕事と暮らし、遊びの境目がない。都会の働き方では仕事が人生の大半になってしまうことが多いですからね。
翔太郎:とはいえ、家庭があったり、最低限必要な収入というのもあると思うので、そこに近づけるように組織として努力はするし、継続的に給与アップの機会も作り、徐々に持続的な職場環境も整えていきます。
セト:僕もサラリーマン時代よりも充実感があります。製造業だったので新しい製品を生み出すことで世の中へ貢献する点でやりがいがありましたが、すでにモノが十分にある中で続けて行くことに違和感を持っていました。自分の理想のライフスタイルに近づきながら、気候変動という急務の問題解決のために、サステイナブルな社会へシフトしていく活動に、自分の好きなアウトドアスポーツを軸として関わっていることに充実を感じています。

「好きなことを仕事にする」。多くの人が思い描きながらも絵空事になりかねないが、POW JAPANで働くということは「好きなことをしながら仕事ができる」と言える。好きなときに働き、好きなときに遊ぶ。仕事も遊びも、自然相手だから、自然のリズムに合わせて動く。

自分たちの遊ぶ自然環境を守るために、アクションを起こすという世界的な社会問題への取り組みは、仕事という枠を越えて、時に大きな充足感を得られるライフワークとなるだろう。

ボランティアではなく、持続可能なキャリアデザインをしながら、暮らしの延長にある気候変動と向き合う。そのウネリは少しずつ大きくなり、社会を動かす。

3人の言葉からは、大きなやりがいと、豊かな暮らしが調和したワークスタイルがにじみ出ていた。自分の時間を大切に使えるからこそ、仕事にもポジティブに取り組むことができるPOW JAPANに、新しい働き方のヒントを見つけた気がした。

Text by Lisa Obinata

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2021-07-14T14:10:10+00:00