太陽光で動くロープトー
– FUTURE LABの挑戦 –

2025年3月末、湯殿山スキー場(山形県鶴岡市)で開催された地形イベント「DRRREAM SESSION」にて、「FUTURE LAB」(未来の実験室)による、雪上に並べられた太陽光パネルでロープトーリフトを動かす「実験」が行われた。この実験の裏側を紐解くため、イベント1日目終了後、POW JAPANはトークセッションを主催させてもらった。
ー 登壇者紹介 ー
きっかけは「遊び続ける、滑り続ける」ため
「自然の力だけで動くロープトーリフトってロマンがあるな」
それがこの実験のはじまりだったと語るのは、DIGGIN’ MAGAZINE編集長の小林大吾さん(以下、大吾さん)。彼がこの壮大な実験の仕掛け人だ。
「もう随分と前のことだけど、年々、雪が減っていることを目の当たりにして、“あと何年遊べるんだ?”というシンプルな問いが浮かんだ。雪が減ることで、遊び場が変化し、スキー場の経営も厳しくなるかもしれないという不安がよぎった。それと同時に、標高を上げた裏山に自分たちで遊び場を作って、太陽光で小さなリフトを動かしたら楽しいのではないか? そんな環境が全国に広がったら楽しいのではないか? というアイデアが浮かんだ」それがFUTURE LABのきっかけだ。
自分が遊び続けるため、と語る大吾さんだが「読者の最大公約数が自分だと思っている」というように、DIGGIN’ MAGAZINEを通して、多くのスノーボーダーたちの想いを背負い、ロマンと遊び心の裏に、未来に向かって率先して行動することを決めた「覚悟」が垣間見える。


たくさんのひとを巻き込んだ
実験の歩み
今回が4回目の開催となるFUTURE LABには、太陽光パネルでロープトーを動かすための、強力なサポート体制が整っている。太陽光パネルから送電までの仕組みを支えるのは自然電力株式会社。ロープトーリフトの技術を支えるサカイエンジニアリング。今回初めて導入された蓄電池システムをサポートするAkaysha。そして実験全体をサポートしてきたBURTON。これらのメンバーが、この実験の実現に大きく貢献してきた。
もちろん最初から順風満帆だった、というわけではない。
2022年、新潟のスキー場で行われた初めての実験では、悪天候や太陽光パネルの設置数も少なく、なかなか思うように発電しなかったという。それでもパワコンの電源がついただけで(リフトは動いていない)、大吾さんは歓喜。その姿を見た(当時、自然電力株式会社に所属していた)岩崎さんは「大吾さんについていくしかない!」と思ったという。
SRAに加盟する湯殿山スキー場でFUTURE LABが開催されるようになったのは3年前から。偶然が重なって、地形遊びで人気を集める湯殿山スキー場、小松吾郎(POW JAPAN代表理事)のDRRREAM SESSION、そしてFUTURE LABのコラボが決まった。
2023年、湯殿山での1回目の実験では、太陽が出てロープトーリフトが動いた時、その場にいたスノーボーダー、スキーヤーたちから拍手と歓喜の声が上がった。自然の力で、リフトが動く。それだけで嬉しくて、気持ちが良い。しかし、太陽が雲に隠れれば、もちろん発電とロープトーは止まる。そして、当たり前のようにスノーボーダーたちは板を抱えて、トップに向かって歩き出す。「歩いて動ける範囲で楽しむということを共有したい」というDRRREAM SESSIONのコンセプトは、みんなのマインドに根付いているようだ。

3回目の実験までは、予備として発電機を用意していたが、今年の実験では発電機を外し、蓄電池を導入した。イベント前日にインバーター(ロープトーのスピード調整や、リフトモーター起動時の負荷吸収を担う)が故障するというトラブルが発生。太陽光パネルと蓄電池だけで稼働したところ、蓄電池がインバーターに変わって負荷を吸収してくれることがわかり、蓄電池の新しい役割を知ることができた。
ドラマチックに順調に進んでいるように見えているけれど、毎回トラブルも発生する。それはまさに「実験」の醍醐味であり、大吾さんはその度にチームのみんなと解決策を模索し、乗り越えてきた。
この実験のゴールは
スキー場に太陽光で動くリフトが設置されること
今後の展望について聞くと、大吾さんは「いつか太陽光と蓄電池で動くリフトがスキー場で導入されたらロマンがあるよね」と語る。それには、雪国という厳しい環境下で、蓄電池を野外で使用する際の課題やリフトのモーターの課題など、太陽光発電で動かすシステムの進化が必要だ。その課題を一つ一つ実験していきたいと言う。
この実験を可能にさせるチームメンバーの自然電力やAkayshaも大吾さんの熱量に突き動かされ「セットアップに時間がかかるのが課題なので、他の場所でも使えるようなセットアップを作りたい」「自然電力のメンバーがいなくてもできる仕組みを作りたい」と語る。
1人の滑り手が「これからも滑り続ける」ために始めた実験は、たくさんの人たちを巻き込んで、「スキー場のリフトが太陽光で動いている」という未来に確実に近づいている。

スノーボーダーだからこそ
できること

「太陽の力で動くリフトに乗ったスノーボーダーたちはどんな反応ですか?」という会場からの質問に「なんてことないし、ロープトーとしては何も変わらない。だけど、なんでかわからないけれど気分がいい、と言ってくれる人が多くいる」と大吾さんは答えた。
自然の力で発電した電気を使って、遊ぶ。だから気持ちがいい。
一方で、昨今では「再生可能エネルギー」の手段である太陽光発電や風力発電が自然破壊に繋がる例も少ない。このトークセッションの最後にPOW代表の小松吾郎は次のように語る。
「スノーボードも、太陽光パネルも、道具をどう使うのかが大事。アウトドアプレイヤーである自分たちだからこそ、どうやって「そうじゃない形(自然を破壊しない方法)」を実現していくか。「自分ごと」として関わっていくことが必要だ」
PHOTO:IZUTA

大吾さんの実験はロマンがあって、壮大だ。
だけれど「これからも遊び続けたい、滑り続けたい」という想いは、滑ることを愛する人なら誰しも共通しているはずだし、その想いを行動に繋げることだってできるはずだ。
まずはFUTURE LABに参加して太陽光で動くロープトーに乗ってみる、あるいはSRAに加盟するスキー場で、気持ちよく滑ることから始めてみてはどうだろうか。
このトークセッションの全編はSpotifyとYoutubeでご視聴いただけます。







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