CLIMATE REALITY PROJECT

「気候変動」をキーワードにしたニュースの数がここ最近やっと増えてきた。Googleでキーワード検索をするだけでも、2ヶ月前とは比べ物にならない盛り上がりだ。先日ニューヨークで行われた国連気候行動サミット2019やスウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリによる目が覚めるようなメッセージ、世界の主要都市で多くの若者たちが立ち上がったグローバル気候ストライキ、そして小泉環境大臣の話題など日本国内のメディアで「環境」というトピックが旬を迎えている。しかしこれだけメディアが発信していても、直接的に気候変動の現状や緊急性を伝えるには不十分だ。

100年に一度、50年に一度、今世紀最大、観測史上最大、記録的な・・。いつの間にかこんなレア度を示すワードが説得力を失い、頻発する台風や上昇し続ける気温に「あら、またなのね。困ったわぁ」と変り続ける環境に周波数を合わせる生活。小さなコミュニティからでもいいから、もっと直接的に人々に気候変動の現実を伝える方法が必要だ。

アメリカ元副大統領であり、ノーベル平和賞を受賞した環境活動家のアル・ゴア氏が立ち上げた”Climate Reality Project”は、世界中の人々が一丸となって気候危機に対する解決策を考え、1人1人が行動するためのドアを開く非営利団体。過去10年に渡り、世界13カ国、計42回行われてきた“リーダーシップ・コミュニティ・トレーニング”では気候変動の現実と課題を自分たちのコミュニティや仲間に広める意思をもつ「リーダー」を育成し、その数は2万人以上にのぼる。

その世界的な43回目となるトレーニングプログラムが東京で初開催。10月頭、まだまだビーチサンダル気分だったPOW事務局のメンバーは足下を(ある程度)キッチリとした靴に履き替え東京に向かった。

会場となるグランドニッコー東京には国内外、18歳から86歳までの800名を超える参加者が集結。企業、政府、自治体からNPO/NGO、学生や一般市民にいたるまで参加者のバックグラウンドは様々。参加企業も金融関係からアウトドアブランドまでボーダーレス。ジャンルも年齢も国籍も問わない、気候危機に立ち向かう意思を持った者たちの人間交差点。普段味わえないような空気感に背筋がピッとなる気持ちはなかなか心地よいものだ。

ディナーショーを彷彿とさせる丸テーブルが敷き詰められた会場内に入り、同じテーブルを2日間に渡りシェアする参加者9名と自己紹介を交わす。WWFやピースボート、気象予報士、財団などメンバーは様々で、なかでも“日本キリバス協会”は特に印象的だった。この島国は温暖化により海面上昇が進むと海に沈んでしまうと言われている。

トレーニングの日程は2日間。初日は「知識を身につける」というテーマに沿って気候危機の現状を国際的な協定や目標から日本国内へとフォーカスし、行政、科学者、金融、企業、電力会社などの代表者を交え、パネルディスカッションを通して学ぶ。そしてこの日のハイライトは映画「不都合な真実」さながらのアル・ゴア氏によるプレゼンテーションだ。2006年にリリースされ、気候変動に対する世界的なムーヴメントの火付け役となったこの映画。まだ観たこと無いのであれば是非TSUTAYAへ走ろう。

初日行われた3回のパネルディスカッションの中で議題としてあがったのが、国内の気候変動対策で最大のカギを握ると言ってもよい「日本のエネルギー政策」についてだ。POW JAPANとしても力を入れているこのトピックについて、様々なフィールドで活躍する専門家からの貴重な意見が飛び交った。

・火力発電に頼る日本のエネルギー政策には限界があり、出来る限り早い段階で脱炭素化を目指す動きが必要となる。

・企業の多くは再生可能エネルギーへの転換を求めており、企業が価値を高めていく。

・エネルギー制度の転換だけではなく、経済モデルやライフスタイルの転換も重要。

・フードロスを考えた上での家畜の育て方。この課題には新しいビジネスチャンスが溢れている。

・気候変動対策については反発する声が多いが、SDGsに関しては企業も行政も積極的。そこは正面突破の戦術ではなく、変化球も重要。

・新しい技術を見出すのも大切だが、今ある現実を変えていく努力。

など、リストアップすればキリがない意見が盛りだくさん。日頃得ることの出来ない情報や事実を知る事で、危機感を使命感をより強く感じた。

1日目が終わり、お台場から滞在先の蒲田へと移動する。パンパンになった頭の中をビールでマッサージしながら、1日の出来事を事務局メンバー同士で語り合う。どうやら皆、だいぶインパクトのある日を過ごしたようだ。気がつけば雪山の話し。スキーの話し。スノーボードの話し。好き者たちが集まると、話しは尽きない。

2日目。蒲田駅周辺のオールナイト営業でくたびれたスナックの入り口に「朝定食」の看板を見つける。空腹に身を任せ、胃を満たす。何年ぶりかのラッシュアワーを乗り切り会場へ。山でのルートガイディングよりも、都会での乗り換えの方が難しい。

「知識を行動に変える」がこの日のテーマだ。社会に変化をもたらした企業や解決策を研究し続ける専門家を迎えてのパネルディスカッションは実にポジティブ。IKEAジャパンの代表取締役社長によるプレゼンテーションも交え、企業や金融機関が気候変動対策に対してのキープレイヤーであることが話し合われた。

その後トレーニングは実際のプレゼンテーションスキルを養うセッションへと移っていく。実際にプレゼンテーションをする際にスライドをカスタマイズする方法やリーダーシップコミュニティの役割を知り、「行動する原動力はどこから来るのか?」を考える。今回のトレーニングを形にするための、大事なスキルだ。日頃、気候変動や地球温暖化に意識を向けていない身の回りの人にどう話すか?POWがスタートしてから「伝える大切さ」を改めて実感した自分としては、今後の糧となるのは間違いない。

最後のパネルディスカッションが終わり、最後に修了書がそれぞれに配られると、それまでの会場内はポジティブ空気に包まれていく。2日間の充実した時間は800人の参加者を1つの目標へ向けて確実に動かし始めている。今回のトレーニングを通じて感じたことは、まだ日本にはやるべきタスクが山積みであると言うこと。ある人の話しでは5年以上遅れているという日本のエネルギー政策。気候行動サミットの中では世界77カ国が2050年までに温室効果ガスをゼロにする動きを見せている中で、日本は逆行している。その中でも再生可能エネルギーのコストは下がり続け、企業や金融機関の意識はポジティブに自然エネルギーへとシフトしている。気候変動の大きな原因は人間たちの行為によるもの。だからこそ、その原因を解決できるのも我々人間。残された時間が限られている中で、気候変動、いや気候危機と戦っていく闘志をさらに燃え上がらせてくれた。

トレーニングを共にした参加者たちは今後それぞれどのような活動をしていくのだろうか?

ある人は舟の上で、ある人は母親や子供たちに向けて、ある人はクラスメイトへ、ある人は小さな島国の人々へ。そして僕たちは冬を守りたい滑り手たちへ。これからの未来がまた楽しみになってきた。