再エネ導入セミナー

スキー場の実践例から学ぶ、導入のリアルと第一歩〜

-開催レポート・後編-

本記事は、
①前編 「スキー場の再エネ導入ってどうやるの?」に応えるセミナーの内容をご紹介!
②後編 「実際の再エネ導入のリアル」なパネルディスカッション
の2編で構成されています。

再エネ100宣言 RE Action(アールイーアクション、以下、RE Action)金子さんのご講演に続いて、実際に再エネを導入したかたしな高原の澤さん、戸隠スキー場の戸谷さんを交えた、パネルディスカッションを行いました。
後編では、実際に再エネ導入を進めている目線から、実際のプロセスや、費用に関するリアルなお話をお聞きしました。

POW Japan 武井)

まずは自己紹介からお願いします。

かたしな高原スキー場 澤さん)

かたしな高原スキー場の澤と申します。60年近く続くスキー場です。

澤さん

2021年に段階的な再エネ化を目指して、まずは再エネ30%からスタートしました。しかし2021年、2022年は電力価格が1.5倍から1.8倍ほど上昇し、事業運営に大きな影響があったため、再エネ利用を中断しました。それでも「やっぱりやろう」と踏み直し、今年(2025年)4月ようやく再エネ100%の切り替えにこぎつけました。

再エネ導入の理由は大きく2つあります。一つは、自然の中で働いている私たちは、気候の変化を日々実感しているからです。花の咲く時期や雨の降り方が狂ってきているのを体感していて、「自分たちにできることをやろう」と思ったのが出発点でした。

もう一つはマーケティングの観点です。以前、POWさんからアメリカのベイル・リゾートの事例を教えてもらい、「サステナブルな取り組みがブランド価値につながっている」という話を聞きました。環境に対するアクションをどのようにしているかで、お客様が行くスキー場を決める時代が来ている。日本でもそういう時代が来ると思い、自分たちの魅力やお客様との信頼関係を強化する一環として、再エネの導入を決めました。

POW Japan 武井)

サステナブルな取り組みとして、分かりやすいものは他にもあると思いますが、目に見えない電気の再エネ切り替えを選んだのはどうしてですか?

かたしな高原スキー場 澤さん)

電力は目に見えませんが、私は「再エネ100%で運営している」というのは非常にわかりやすいメッセージだと思っています。自然の中でやるビジネスであるけれど、大量に電力を使うスキー場だからこそ、それを再エネに切り替えることには意味があると思いますし、ゲストにもメッセージが届くと思っています。ただ、「再エネ100%」というのは、あくまで契約の話なので、血の通った取り組みとは言いにくい面もあります。なので、みんなで汗をかいて生ゴミをコンポストして畑で使ったり、山形の湯殿山スキー場が太陽光パネルを持ってロープトーを回したように、体験的なアクションにも取り組み、伝え方も工夫していきたいと考えています。

戸隠スキー場 戸谷さん)

戸隠スキー場の戸谷です。

戸谷さん

当スキー場は長野市の所有で、私たちは指定管理者として運営を担っています。6年前にスキー場を引き継いだ際、「自然のためにいいことをしよう」というポリシーを掲げてスタートしました。

まず取り組んだのは、圧雪車の排ガス規制への対応です。これまでに4台を、厳しい排出基準に対応した新型車両に入れ替えました。また、スノーマシン26台のうち14台を電動化しており、約54%が電気で動いています。近い将来、100%の電動化を目指しています。

(左:厳しい基準に対応した新型の圧雪車)(右:電気モデルの降雪機)

一方、再エネ電力への切り替えは遅れていました。理由は、引き継ぎ当初のタイミングで、コロナ禍や世界情勢の不安定化により、電力供給に不安があったためです。しかし体制が整った昨シーズンから、ようやく再エネ導入に着手しました。まずは2基のリフトを再エネ電力に切り替え、今年は50%以上、近い将来には100%の再エネ化を目指しています。

スキー場というのは、お客様に雪の上で楽しんでもらう体験を提供するビジネスなので、雪を守る責任は大きいと思っています。自分たちに負荷をかけながら、やっていきます。

POW Japan 武井)

2基のリフトの再エネ化は、電力を再エネ由来に切り替えたということですか?
再エネ化した時に、コストはどの程度変わったのでしょうか?

戸隠スキー場 戸谷さん)

はい、安い見積もりをいただいたタイミングで切り替えました。
消費電力量の小さい固定リフトから再エネに切り替えたこともあり、再エネ導入に伴う追加コストは、2基分で10万円かかっていないくらい、と少額でした。

すべてのリフトを切り替えた場合には、今の概算で150万円程度の増額にはなる見込みですが、私たちはこれを「やるべきこと」として、実施していく覚悟でいます。

POW Japan 武井)

かたしな高原さんにも再エネ切り替えのコストについてうかがいたいです。

かたしな高原スキー場 澤さん)

1年間の試算で5%くらいコストは下がっています。

もともと東京電力ではない新電力と契約していて、その後東京電力に戻ったのですが、プラン料金がかなり高くなっていて。4月から再び値上げがあるということも分かっていたのでその前に変更しようと、色々と選定して、結果として5%ほど下がりました。

ちなみに、切替先の電力会社で、再エネ100%と再エネ0%の金額差は50万円ほどでした。つまり、再エネ100%を選択するために、当社は50万円ほど負担していることになりますが、マーケティングの観点からも、想いとしても、リーズナブルな価格感であると考えています。

POW Japan 武井)

本当に下がるんですね(笑)。今日ご参加いただいている皆さんも、ぜひ見積もりをとって、金額を比べていただけると良いと思います。
再エネ導入によるメリットについてもお聞きしたいです。

戸隠スキー場 戸谷さん)

まずメリットと考えるのは、再エネの導入によるPR効果です。特に海外からの来場者には、こうした取り組みをすごく評価される方が多いと聞いておりますし、日本のプレーヤーの意識改革も徐々に起きてくると思っています。

私たちが様々なサステナブルな取り組みをしていることを、中日新聞さんに取り上げていただいて、それが紙面に先日掲載されました。そうしたところ、その新聞社さんに、そういうことをやっているのであれば、「応援したいよ」「行きたいよ」という意見が複数届いたということで、私たちもびっくりしました。このようなお客様の受け取り方もあるのだということを実際に感じて、やってよかったなという風に思っています。

今シーズンは、POWチケットの導入も予定しています。

戸隠スキー場は大きいスキー場ではないので、ファンの方に支えられています。シーズン券の販売がすごく多いので、POWチケットを通じてサステナブルな取り組みを提案することで、お客様もきっと積極的に参加してくださるだろうと考えています。

お客様と一緒に、いい環境を作って、スキーを楽しむ環境をつくって、という取り組みをしていけることも、大きなメリットですね。

POW Japan 武井)

逆に、再エネを導入しないことによるデメリットはありますか?

戸隠スキー場 戸谷さん)

再エネを導入しないデメリットについて、広い視野で考えると、やはり「雪が降りにくい環境になってきている」ということが一番大きいと思います。日本ではまだ雪が降っていますけれど、ヨーロッパでは本当に雪が降らなくなってきていて、大きな問題になっています。競技大会も結構キャンセルになっています。

そうした状況の中で、私たちのようにウィンターに関わる事業者がしっかり取り組んでいかないと、本当に「冬がなくなる」、ここが最大のデメリットだと思っています。

それから、もう一つは企業としての姿勢です。環境への取り組みをしない企業というのは、お客様から「応援したい」と思われなくなってしまう。行きたくないスキー場になっていく、と思っているので、積極的に取り組むことにしています。

POW Japan 武井)

契約プランを決めるまでにやってよかったことや、アドバイスがあれば教えてください。

かたしな高原スキー場 澤さん)

まず、今の市場価格がどのくらいなのかを知るために、電力の比較サイトを使ってみました。申し込むと、一気に10社くらいから見積もりが届くんです。様々なプランがあり、「固定なのか変動なのか」「基本料金はどうか」など、会社ごとの色もあるので、まずそれを見て当たりをつけました。

そして、自分の会社にとって一番いいプランってどういうものなのだろう?ということを考えました。

うちの場合は、安心できる「固定料金であること」、夏はあまり電力を使わないので「基本料金が低いこと」、過去に新電力で色々あった経験もあるので、安定していて「信頼できる会社であること」の3つを軸としました。

最初に比較サイトで10社、さらに知人や、地銀さん・取引先などで情報を聞き、全部で14社くらいを比較しました。その中で、最終的には県内の地銀さんに紹介していただいた電力会社と契約しました。

RE Action 金子さん)

皆さんお忙しい中で、何10社もある中で選ぶのは大変だと思います。

これだけスキー場がネットワークになっていますので、スキー場同士で「ここがよかったよ」という情報交換ができると、効率よく検討できると思います。また、電力価格高騰時の新電力の事業撤退などで影響を受けた方もおり、地元の安定した事業者だったり、大手だったりを選択する際の条件に設定するのはよいと思います。大手も色々なプランを持っていますので、複数の提案をお願いするとか、予算をしっかり伝えて、「予算の中でできる限りの内での提案をしてください」という伝え方をするのも有効ですね。

RE Action 金子さん)

さっき澤さんがおっしゃっていたように、「再エネ100%」って本当に分かりやすいんですよね。文字にしても、一目で「何をやってるのか」が伝わる。そういう意味では、すごく良いPRのキャッチコピーになると思うんです。

だからこそ、ぜひかたしな高原スキー場さんも戸隠スキー場さんも、「うちは再エネ使ってます」ということを来場者にしっかり伝えてほしいと思っています。どのように伝えるか、どんな工夫をされているか、ぜひお聞きしたいです。

かたしな高原スキー場 澤さん)

実際に再エネに切り替えたのは4月からなので、冬の営業はこれからなんですが、予定としては、各リフトにステッカーを貼ろうと思っています。「このリフトは再生可能エネルギー100%で動いています」といった内容のものです。

意外と皆さん、そういう表示ってしっかり見てくれるので、それだけで来場者全員にしっかり伝えることができるんじゃないかと考えています。

戸隠スキー場 戸谷さん)

戸隠でも、ほぼ同じことを考えています。

具体的には、リフトの支柱にステッカーを貼る予定で、許可面での確認をしているところです。そのほかにも、リフト乗り場の改札や、レストランのランチマップにも再エネ導入の案内を載せることを計画しています。

RE Action 金子さん)

すごく良いと思います!

リフトに乗っている時って、意外と前のリフトをじーっと見るので、そういう場所に表示があると伝わりやすいですよね。

例えば、POWさんで共通の表示ツールみたいなものを作って、それをいろんなスキー場で使えたら面白いんじゃないかなとも思います。「このスキー場にもある、あっちにもある!」みたいな形で、ユーザーの認知も広がるはずです。

POW Japan 武井)

共通のロゴや表示ってすごく良いアイデアですね。ありがとうございます。

最後に、POW Japanより

「冬を守る」ために、スキー場からできることがあります。
再エネ導入は、環境のためにはもちろん、来場者の方からのロイヤリティや応援、また電力コストの見直しという現実的なメリットにもつながります。
その第一歩は、情報を知ること、そして見積もりをとること。見積もりを取られたら、POWにぜひ教えてください。

登壇くださった金子さん、澤さん、戸谷さん、最後までお読みくださった皆様、ありがとうございました!

本日のまとめ

ご登壇者情報

再エネ100宣言RE Action

企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体が、使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する枠組み。
参加団体による再エネ100%宣言、再エネ100%実践支援、情報発信を行っている。
ホームページ:https://saiene.jp/

かたしな高原スキー場

ホームページ:https://katashinakogen.co.jp/

戸隠スキー場

ホームページ:https://www.togakusi.com/ski/